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February 1321999

 芹つみに国栖の処女等出んかな

                           榎本星布

本星布(せいふ・1732-1814)は女性。武蔵国八王子(現・東京都八王子市)生まれ、加舎白雄門。古典の教養を積んだ人で、私のように朦朧とした人間にも、この句のおおらかさは万葉の時代を想起させる。上野さち子『女性俳句の世界』(岩波新書)で勉強したところによれば、『万葉集』巻十の春相聞「国栖(くにす)らが若菜摘むらむ司馬の野のしばしば君を思ふこのころ」を踏まえている。国栖(くず)は奈良県吉野川上流の集落名で、奈良・平安時代を通じて宮中の節会に笛などの演奏で参加を認められていたという。その意味では、由緒正しい伝統のある土地柄なのだ。ところで、句は見られるとおり、踏まえているといっても、恋の心を踏んでいるわけではない。明るくおおらかな若菜摘みの情景だけを借りてきて、みずからの晴朗な心映えを伝達しようとしている。したがってここで注目しておきたいのは、万葉の情景を拝借してまでも、このようなおおらかさを歌い上げておこうとした星布の内心である。いわば「かりそめの世界」に無理にも遊ぼうとした作者の、現世に対する苛立ちを逆に感じてしまうと言ったら、深読みに過ぎるだろうか。あまり上手ではない句だけに、気にかかるところだ。「処女」は「おとめ」と読む。(清水哲男)




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